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2011年1月23日 (日)

「黙秘」-ベイツよ。1995年のアカデミー賞でなぜノミネートされなかったのか!?-

原題は「Dolores Claiborne」。キャシー・ベイツ演じる主役の名前だ。1995年の映画である。ものすごいパワーをもった映画だ。見終わった後も、何度も何度も繰り返し見た。何度見ても、面白くて、そしていろいろなことを考えさせられ、また見なおしてしまう。

3人の女性の男性から受ける悲劇が描かれている。

一つは主役のキャシー・ベイツ演じるドロレスの悲劇。アルコールで落ちぶれている夫による暴力だ。ちょっとやちょっとの暴力ではない。薪のようなもので、腰を前触れもなく打たれたときのキャシー・ベイツの顔はすごかった。暴力をふるわれたときのあの苦しそうな顔は、演技というか、本当に手加減なしで殴られたのかと心配になるほどの、忘れられない顔だった。なおかつ憎い夫は肉体的な暴力だけではなく、彼女の容姿やバックグラウンドを常に馬鹿にして、言葉の暴力を浴びせかける。

二つ目はドロレスの娘、セリーナの悲劇。ジェニファー・ジェイソン・リーが常につらい表情で演じている。彼女は名門ヴァッサーを出て、今やジャーナリストとしてニューヨークで働いている、が、成功して幸せな生活をしているとも見えない。瓶から直接ウイスキーを飲み、タバコは立てつづけに吸い、職場の上司とも仕事を取るためか、特に愛のない体だけの関係を結んでいる。ニクソンにインタビューしたり、と、華々しいキャリアを積んでいるようにも見えるが、自分のことが大嫌いな女性に見える。彼女のカバンの中には大量な薬の容器がある。精神が不安定になったときに飲んでいるところを見ると、きっと抗鬱剤であろう。とても美人なのに、いつも地味な喪服のような服を着ている。セリーナは少女時代につらい経験をしていることが劇中後半で判明する。少女時代を演じているエレン・ミュースという女優(この映画でデビュー)が、少しジェニファー・ジェイソン・リーに似ているから、リアルだ。

三つ目はドロレスが女中として仕える相手、大富豪ヴェラ。夫との愛は冷え切っている。夫は彼女と一緒にいても、彼女の存在など見えないようにゴルフに熱中する。ヴェラとドロレスとの「雇い主と雇われ人」を超えた関係については、映画を見ての、お楽しみ・・・

3人とも、「男」という敵に人生を狂わされた被害者だ。しかし、映画の最後では救いの気配を感じる。だから、とてもつらい映画だったが、最後には後味の良さを感じた。

キャシー・ベイツは回想シーンの若いころと、20年後である現在の初老の姿を見事に演じ分けている。メイクの技術も高いのだが、それだけではない。若いころのシーンでは声の高さも変えている。人の声は年齢に応じて変わっていく。先日松坂慶子の若いころの「道頓堀川」を見て、「こんなに声高かったんだ!」と思ったものだ。年齢の違う人物を同じ俳優が演じるときに「声」の調整は重要なのだな、と本作を見て思った。

ちなみに、テイラー・ハックフォード監督のコメンタリーによると、回想シーンはフジのフィルム、現在のシーンはコダックのフィルムを使用しているらしい。フジは温かい色調で、コダックはクールな色調らしく、過去のドロレスを取り巻く環境(若く、希望を持った時代)と、現在(「不毛な環境」と監督は表現している)の状態を分けたかったらしい。現在のシーンは「青み」が強く、見ている方まで寒くなる。こういう細かい技法を使うこの監督は、ヘレン・ミレンの旦那だ。

キャシー・ベイツはこの映画での驚異的な演技にもかかわらず、主演女優賞にノミネートされなかったようだ。これ以上の演技はない、と思えるほどの彼女だったのに・・・不思議だ。

圭子

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