「トリスタンとイゾルデ」-時代劇に見えないジェームズ・フランコの立ち振る舞い-
シェークスピア戯曲の「ロミオとジュリエット」は、本作の元になった中世の物語「トリスタンとイゾルデ」に影響を受けて作られたとのことであるが、本作からは強烈な悲劇は感じられない。演じる俳優たちから、悲恋の苦しみがあまり伝わってこないのが正直な印象だ。
時代は、ローマ帝国の崩壊後。イギリス(劇中では「ブリタニア」と呼ばれる)はアイルランドの支配下にあった。コーンウォールの若き騎士トリスタン(ジェームズ・フランコ)と、アイルランドの王女イゾルデ(ソフィア・マイルズ)が運命の出会いをするが、悲劇である本作で、二人がハッピーエンドを迎えるわけがないことは、映画を最後まで見なくてもわかることだ。
しかし、実際は、「それほど悲劇」っぽくも見えないのが本作の問題点なのだと私は思う。
まず、好きでたまらないイゾルデが、自分の育ての親であるマーク王(演じるルーファス・シーウェルの目力が渡辺謙をほうふつとさせる!)と結婚することになっても、大騒ぎせず、ただ、ぼんやり落ち込むだけの草食系トリスタンに、「もうちょっと感情あらわにしたら?」と思ってしまった。何もできないのは仕方ない。自分自身マーク王を尊敬し、父のように愛しているわけだ。複雑な心境なのはわかる。しかし、愛する女性が自分の父親的存在のマーク王に抱かれているわけだ!ぼんやり塔を見上げてうっすら涙を流す、というだけでは「悔しい」気持ちがあまり伝わってこない。
イゾルデもイゾルデで、「つらいわ」と言いつつ、政略結婚相手を演じるルーファス・シーウェルは普通にカッコイイので、それほど苦しそうにも見えない。言ってみれば、「そりゃあ、ジェームズ・フランコは超イケてるけど、ルーファス・シーウェルだって優しいし、大事にしてくれるし、渡辺謙的目力もある。ま、そんなに悪くないよな、このシチュエーション」という風に見えてしまうのだ。もちろん、イゾルデがつらいのは、わかる。あくまでも、映画としての印象である!マーク王をソフィア・マイルズよりもむちゃくちゃ年上で、見た目があまり美しくない、しかし、気は優しい、という雰囲気の俳優が演じていたら、もう少し「やるせなさ」感は出たかもしれない。
そして、トリスタンとイゾルデが何度も危険を顧みず挑戦する逢引。これも、もっと苦しそうに「ああああ!なんで俺たち一緒になれないんだ!!?うぉーーーーー!!」とか叫びながら愛し合う、とかならまだベタな悲劇感がある。なのに、普通にラブホテルで落ち合って愛し合い、「ふ~。今度いつ会う?」ってな感じのカップルにしか見えないのだ。すまない・・・
一番の問題点は、ジェームズ・フランコの歩き方、話し方、に時代劇的雰囲気を全く感じられないことだ。トリスタンの子供時代を演じるトーマス・サングスターが、すごくよい分だけ、青年になった時の彼の物腰が、まるで「マンハッタンを闊歩する若者」のようで・・・ その点、「The Tudors」での「世界で一番イケてる公爵、サフォーク公チャールズ・ブランドン」を演じていた時もそうだったが、メロート役のヘンリー・カヴィルの歩き方、しゃべり方。きちんと「時代劇」している。本作には、カヴィルを含む、最近私がチューダー朝関係ドラマで出会った何人かの役者が出ている。(「The Tudors」でサリー伯を演じていた、声が特徴的なデヴィッド・オハラがイゾルデの父親役、「キング・オブ・ファイヤー」でノーフォーク公を演じていたマーク・ストロングが、本作ではウィクトレッドという悪役を演じている。)そんな役者たちの中、ジェームズ・フランコのアメリカ英語と現代的草食男子的態度、ふわふわヘアーに、今一つ感情移入できなかった私であった。
圭子
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