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2013年8月16日 (金)

「桐島、部活やめるってよ」-胸を締め付けられる思い-

「桐島」はバレー部キャプテン。部活を辞めるようになった(らしい)彼を待ち続ける同級生たちを描く。しかし、「ゴドーを待ちながら」のように、待てど暮らせど桐島は現れない。

同じ日を、視点を変えて何度も丁寧に描く、ガス・ヴァン・サントの「エレファント」のような演出。このように別方向から同じ時間を描くことによって、桐島を待つ生徒、そして、桐島との関係が薄く、特に待っていない生徒の「人となり」が短い時間でうまく見るものに伝わってくる。

恐ろしいほどに、自分が「学生」だったころの気分に戻ってしまった。もうじき50歳に手が届くような年齢になっているのにも関わらず、私はこの映画を見ていて、気持ちは吹奏楽部に入っていたころの自分に戻ってしまった。吹奏楽部の女の子を見ていて、30年も前のことを思い出す。屋上から好きな子が友達と遊んでいるのを見つめるときの感覚。(こういう感覚は、大人になってからは経験しようがない。そもそも高い建物の上から見下ろすような形で好きな人を探すことは「学校」にでもいない限り難しい。)そして、好きな男の子と同じ空間(教室)にいるだけで気絶するような幸福感を得る感覚。心が切なくなった。

ジョージ・A・ロメロが大好きな映画部の男の子を見ていたら、高校のとき、クラスの女の子と二人で「雑誌」を作っていたことを思い出した。そのころ好きだったEcho & the BunnymenやらAztec Cameraやらのレビューを私が書いて、絵が上手な彼女が幻想的なイラストを描いた。本屋にあるコピー機でコピーを取り、それを綴じて冊子のようにして、二部作り、自分たちだけが読んだ。自分で作ったものを自分で読む。自己満足でしかない。でもその時、世界にさえ胸を張っていた。自分たちは相当かっこいい、と感じ、なんにでもなれる(でも、なんにもなれないような不安も同時にある。)ような気分でいた。

そんな風に、どのシーンを見ていても、何らかの形で自分の10代のころの心境に戻ってしまうのを止めることができず、胸を締め付けられるような気分になって、息が止まりそうになりながらストーリーを追った。

失恋をして、心がぱきんと折れてしまった吹奏楽部の女の子。折れた心を抱えながら音楽室に練習に行く。そして、みんなでワーグナーを吹く。(彼女はサックス担当だ。)そこで、ワーグナー、なのだ。こっちは涙をおさえる暇もない。涙をおさえていたら、大事な場面が見えなくなってしまうので、かすんだ画面を瞬きもできず見続ける。こういうとこで「ローエングリン」なんて演奏されたら、こまる!この曲がBGM となって、最高にクールなゾンビ映画を屋上で撮影中の映画部の男の子たちと、桐島を捜しにずかずかと入り込んできた「イケてる男の子」階級の学生、「イケてる女の子」階級の学生、そして、桐島なきあと混乱しているバレー部部員たちが大乱闘になる。「ローエングリン」をバックに、「ゾンビ対人間」劇だ!(ワーグナーを演奏し終わったときのサックスの子の顔が素晴らしい。そうなのだ!若さとは、こういうことなのだ!身体が真っ二つに裂かれたような失恋の大きな傷も、美しいワーグナーの旋律がきれいに補正してくれる。そして、すぐに立ち上がることができる。)

吹奏楽部の女の子を演じているのが、あの、大後寿々花であることに、エンドロールまでわからなかった。似ているな、とは思ったが、まさか、と思うほどに大きく成長していたからだ。何も言わなくても、表情だけで人の心を大きくゆさぶる彼女の将来が、よい意味で、とても不安だ。

圭子

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