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2014年2月 5日 (水)

「アルバート氏の人生」-浜辺の疾走-

想像してみた。女性であることをひた隠しにして生活することを。男装をして暮らし、歩き方も話し方も男性のふりをする。そしてそんな生活が1日、ではなく何十年も続くことを。物理的に、とても困難なことだ。毎月来る生理の処理はどうするのだ?胸の膨らみを平らにするにはどうするのだ?誰か男性の仲間が「一緒にトイレ行こうぜ。」と誘ってきたらどう逃げるのか。そして一番の問題点は、「男性と恋に落ちることを断念しないといけない」ことだ。そう。1日だけならなんとかなる。しかしアルバート・ノッブスはこのような困難な生活を14歳のときから初老にいたる現在まで毎日続けてきたのだ。

19世紀のアイルランド。アルバート(グレン・クローズ)はホテルでウェイターとして真面目に働いている。小柄のおじいさんのように見えるが、彼は女性だ。男性として生きるしか、生き残る手段がなかったアルバート。もちろん本名は「アルバート」ではないはずだ。しかし彼はあまりにも長くアルバートを生きすぎた。のちに出会う似たような境遇のヒューバート(彼も「女性」だ。)に本当の名前を聞かれても、「アルバート」と答える、なぜそんなことを聞くのか?とでも言いたいような表情で。

ホテルで客からのチップを大事に床下に貯めながら、いつか独立して店を構えることを夢見る。妄想の中の風景は色鮮やかだ。現実のダブリンの生活は常にグレーのトーンであるが。

アルバートはホテルの仲間のヘレンと結婚をして共に店を経営しようと夢想するが、「小柄の初老の同僚」には目もくれず、野生的なろくでなしである美男のボイラー係ジョー(こういう女を不幸にする男をうまく演じているキック・アス兄ちゃんに乾杯。)にのめり込んでいる。挙げ句の果てには想定外の妊娠だ。ジョーが責任を取るはずもない。ヘレンも14歳のころのアルバートと同じだ。あの時代の女性は、圧倒的に不利だ。

アルバートの人生は、ある意味救いがない。少しずつ少しずつ大事にお金を貯め、夢のタバコ屋開店を夢見てきた、何年も、何十年も。なのに神様はアルバートに微笑んでくれなかった。しかし、だからと言ってアルバートの人生が無駄だったなどと誰が言える!?

ラストの洗濯ものがはためく中、ヘレン、彼女の赤ちゃん、そして彼らを見つめるヒューバートの姿に、希望を見る。アルバートがいなかったら彼ら三人の人生は結びつかなかった。アルバート氏の人生があったからの、奇跡だ。

グレン・クローズは、何十年も男として生きるしかなかった悲しい女性を、恐ろしいまでにリアルに演じている。ずっと、あまりにも長く「男」として生きていたため、劇中一度だけ女性の服を着て外を歩くときにかなり不自然な歩き方をしていた。まるでスカートを履きなれない男性が女装をしているかのように!慣れないスカートで浜辺を疾走するアルバート。抑圧された生活から一瞬だけ解放された喜びで頬を染めて走る。アルバートを愛さずにはいられなくなるシーンである。グレン・クローズは偉大だ。

圭子

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