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2020年8月30日 (日)

「希望のかなた」-人は人を助ける。-

難民問題を描く作品だ。主人公の一人、カーリド(山田孝之と妻夫木君を足して2で割ったような見た目の俳優が非常によい。)はシリア人。戦乱で故郷を追われ、貨物船でフィンランドにたどり着いた。しかし、簡単に社会に受け入れられるわけではない。難民申請は受け入れられない。不安定な立場のまま、それでも周囲の善人たち(無表情だが、温かい)に守られ、前向きに生きる。

もう一人の主人公は妻とうまくいかなくなったヴィクストロム。シャツの卸の仕事をしているが、思い切って転職をしようと、ポーカーで儲けたお金でレストランを買い取る。妻は酒におぼれている。

この二人と、二人を取り巻く善人たちが次第に絡んでいく。一部の人種差別グループを除き、この物語には悪者がいない。そして、見る者に勇気を与えてくれるのが、常に堂々としている姿勢の正しいカーリドの生き方だ。彼は気持ちがよいほどに、淡々としている。また、カーリドと難民の施設で出会ったイラク人の男性の劇中での言葉が、非常によかった。暗い表情をしていてもろくなことはない、ニコニコしていた方がよい、といったアドバイスをカーリドにするのだが、これは別に、難民の方が送還を避けるためだけではない。きっと今の自分(そして多くのコロナに影響を受けた日本人)にも当てはまるかな、と感じた。今、私はコロナの影響で、仕事がない。私は訪日外国人に英語で観光のガイドをするのが本業だ。外国人が日本にいない状態が続き、もう仕事は5か月ほど、ゼロだ。気が付くとすごく暗い顔をしている自分に気が付く。故郷を追われた難民の方とは桁が違うだろうが、それでも絶望や不安で気持ちがふさぐ日々だ。しかし、暗い顔をしているより、ニコニコしている方が自分の身を守る、というのはカーリドも私も同じなのかな、と感じた。ありがたいアドバイスだった。

結果として、この映画の中でカーリドが今後どうなるかは語られない。お腹を刺されたあと、回復したのか、自身の不安定な身の上が解決されたのか、また、妹がうまく難民申請できたのかもわからない。映画が終わってもカーリドの人生は困難なことであることは予測される。それでも、微笑んでいる彼の表情から、そして、まとわりつく愛らしい犬、コイスティネンからは、決して不幸な未来は見えない。善良な名もない市井の人々に無表情で助けられ、今もフィンランドで淡々と生きているカーリドを想像する。

カウリスマキはこの作品を最後に引退をする意向を示しているとのことだ。今、コロナの中、世界中が絶望している。引退なんてどうかやめて、気持ちが温かくなる映画をまた作ってもらいたい。カウリスマキの映画は、見た後時間がたってからものすごく心に突き刺さる。昨日スシのシーンを大笑いしながら見たこの映画だが、翌日の今日思い出して、カーリドのことが心配で涙が止まらなくなってきた。

圭子

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